LaTeX (TeX) で教材を手軽に作る

背景

教員の業務のひとつとして,教材を作成することは日常です。 数学の教材を作るにあたっては,数式が表現できることが欠かせません。 私は教材作成に LaTeX (TeX)12 を用いています。 LaTeX は便利ですが,ある程度操作に手間を要することは否めません。 しかし,業務に占めることのできる教材作成の割合は(残念ながら)僅かです。

目的

  • 高校・中学数学の教材作成の時間を少しでも短縮する。
    • そのために実際に私が行っている工夫を紹介する。

前提

内容

すでに存在する文書で必要十分なものがあれば活用する

学校教育においては,著作権の例外措置があります。 内容・表現ともに満足のゆく資料があるのなら,あるいはほんのわずかに補足すれば十分な資料があるのなら,そのまま使うべきです。 それを逐一入力しなおすことは,時間の無駄であるだけでなく,それが著作物の引用であることを曖昧にしてしまいます。

コピーを取り,どこかに手書きで出典を書きます。 補足を付けたければ,余白に(引用と区別がつくように)記載します。 次年度に備えて記録をとっておきます。

Web 上の記事や,教員用に配布される雑誌,書籍などこうして済ませることは数多くあります。とくに書籍は生徒が将来興味を持って読んでくれるかもしれません。高校2年生でのベクトルの授業において,ベクトルの抽象化に触れるにあたり理系のための線型代数の基礎(永田雅宜)4を引用したことがあります。そのときの生徒が大学生になって購入したと教えてくれました。これは,ベクトルの抽象化に関する教材を自分で書いてしまっていたら起こらなかったことです。

私は,記録としての意味も含め,取り込んだものを引用と分かるように LaTeX 上で貼りつけています。

内容の執筆中は極力体裁のことを考えない

まず,執筆中に体裁のことを考えてはいけません。 まずは数学的内容を一気に書いてしまうべきです。

LaTeX であれば,とくに体裁は LaTeX がやってくれるでしょう。Stucyaid D.B. や Microsoft Word をお使いのかたも,位置の調整などは最後にまとめて行うほうがよいでしょう。 最初に位置を調整したとしても,あとで無意味になることはままあります。 書きあがってから全体を眺めると,定義を追加せねばならなかったり順序を入れ替えたほうがよく思えたりするものです。 体裁はすべてが済んでから調整しましょう。

LaTeX であれば,一度自分の満足のゆく体裁を作ってしまえばその後はたいへん楽になります。私自身はそれらを The Japanese Educational Preambles としてまとめました。

図を無理に LaTeX で描かない

本文のみを書いているのであれば,おおむねどのソフトウェアを使っていても大きな差はありません(私の体感では)。 LaTeX で教材を作るときに時間がかかるものといえば図です。

著作権上問題のない図であれば,借りてきて取り込んでしまうのが一番簡単です。図のみを借りてくるとき,とくに出典の記載を忘れないようご注意ください。この手は最もよく使います。

使える図がないときは,あなたが慣れているソフトウェアで描いてしまいましょう。 極端に言えば,図のみ手書きし,スキャン/撮影して挿入してもよいのです。

ひとまず本文を続けます。詳しくは次を参照してください。

各種の作成・描画支援{#tools}5

再利用しやすく保存する

使用した教材は,再利用しやすく保存することがきわめて重要です。数年に一度は同じ科目を持つことになるでしょう(担任として持ち上がればなおさらです)。また,講義で使った資料を演習で再度配ることもあると思います。

ファイルの保存などは自由にすればよいのですが,参考までに私は次のように管理しています。

  • C:\texliveworkspace というフォルダを作成し,この中で教材を作成します。
  • 次のようなフォルダを用意しておきます。
    • @Assistants: 加工のためのソフトウェアのショートカットを入れておく。デスクトップにショートカットを置いておく。
    • @Draft 作っておきたいと思ったもののメモなどを投げ込んでおく。
    • @Logs 使い終わった(おおむね,定期考査を終えた)ファイルを入れておく。
    • @ をつけているのは,表示したときに上に置かれてもらうためです。
  • @Logs フォルダ内は,検索性のために単元ごとのフォルダを作っておきます。配列が見やすいよう,Math1-01_... などとするとよいでしょう。入試演習向けのものは,文理共通のものと理系のみのものに分けたうえ,大まかな単元で分類するとよいでしょう。コラムなどもそのためのフォルダを用意しておきます。
  • 教材 1 つにつきにフォルダを 1 つ用意します。私は,授業回数とともに 01_title... などと名づけています。
  • 必要な図などはすべて同じフォルダに用意しておきます。使いまわせる図もあるでしょうが,一部だけ修正したくなることなどを考えるとコピーを置いておくほうがよいと考えます。
  • どこかで作った資料をほかの場面で配付したときは,ショートカットを置きます。コピーしてしまうと,ファイルを更新したときに混乱します。

職場内で交流する

今の職場8には,お互いの教材を交換したり共有して授業で用いたりしやすい雰囲気があります。 同じ科目を担当している場合はもちろん,そうでなくとも思いがけず有用であることがあるものです。 ぜひ,職場内でも教材は共有しましょう。 あまりそういう雰囲気になっていない場合は,まずは自分が配ってみるとよいと思います。 勉強になる指摘がもらえることもしばしばです。

書籍での学習9

LaTeX を継続的に使う気になられたら,1 冊書籍を用意してじっくり学ぶことを強くすすめます。そうすることで,LaTeX が何をしているのかが分かり,トラブルが減り・対処できるようになります。また,新たな知見を自分で取り入れる能力もつくでしょう。困ったときに web 上の記事を調べるだけでは体系的な理解ができませんし,自分の環境に合っていない記事・古い記事を参照するとかえって混乱する可能性もあります。私は「LaTeX2e 美文書作成入門」で学びました。

教材作成に有用なパッケージ12

詳細

図を描くためのソフトウェア

以下のようなソフトウェアが描きやすいと感じます。 取り込みに向けて,画像ファイルか PDF で出力しておきます。

  • GeoGebra20
    • すぐに使える素材がよく見つかる印象です。借りてしまいましょう。出典の記載を忘れそうになりますのでご注意ください。
  • 関数グラフソフト GRAPES21
    • 定番です。これも素材を公開なさっているページを見かけます。
  • Windows ペイント
    • 簡単な図であれば,これがむしろ早く済むこともしばしばです。
  • Microsoft PowerPoint
    • 意外なほど,これで気楽に書けます。将来の編集に不安はありますが,ひとまず画像に出力してしまえばそれそのものは使い続けられます。
  • Studyaid D.B.
    • 図のみ描いて借りてくることもできるでしょう。Web 上で公開するにはフォントのライセンスが不明ですからご注意ください。

多少時間がかかっても高品位に処理したいのであれば,次の LaTeX パッケージがおすすめです。

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図をクリッピング・PDF 化する

描いた図は,クリッピング・PDF 化ののち \includegraphics で(問題・解答を切り替えたければ hideanswer.sty (最新の TeX Live には収録,CTAN へのリンク27このウェブサイトでの解説へのリンク)を読み込んでおき \hidegraphics で)取り込みます。クリッピング・PDF 化には次のソフトウェアが便利でしょう。

  • 画像ファイルを PDF ファイルに変換する
    • img2pdf
    • i2pdf
      • 本家の配布元が見つかりません。フリーソフト100 / i2pdf28 からダウンロードできるようです。
      • 画像をドラッグアンドドロップすることで PDF にできます。
      • 本来は複数の画像ファイルをひとつの PDF に結合するためのソフトのようですが,1 枚で使うと今回の目的に合います。
      • Options から使いやすく設定しておくとよいでしょう(画像ファイルと同じ場所に PDF ファイルを保存するようにしておくほうが便利だと思います)。
  • PDF ファイルをクリッピングする
    • bcpdfcrop.bat29
      • 自動的に余白を検知してクリッピングしてくれます。非常に優秀です。
      • TeX Live が無事にインストールされている Windows であれば動きます。
      • 右上の[Code]から[Download ZIP]を選んでダウンロードしてください。
    • BRISS30
      • 範囲を指定してクリッピングできます。スキャン済みの書籍をクリップするときなどに活躍します。
      • ただし,時間を取る場合は PDF を表示してスクリーンショットを取り,ペイントで切ったほうが早い場合もあります。
      • 左上の[Download Latest Version]を選んでダウンロードしてください。
      • briss-0.9.exe は起動してからファイルを選ぶ必要があります。次の手順が楽です。
        1. あらかじめクリッピングしたい PDF ファイルのあるフォルダを開いておく。
        2. エクスプローラ上部のパス表示欄([PC > … (C:) > …] とある個所)をクリックし,内容をコピーしておく。
        3. BRISS の[File]/[Load File]を選ぶ。
        4. ファイル名の欄に上のパスをペーストし,エンターキーを押す。
        5. クリッピングしたい PDF ファイルを選択する。

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img2pdf のインストール方法 (Windows)

  1. 非公式 Python ダウンロードリンク31から最新の Python をダウンロードします。非公式であることに不安があれば python.org32 からでもかまいません。
  2. ダウンロードしたファイルを実行します。
  3. [Add Python 3.x to PATH]をチェックします。もしチェックを忘れて進んでしまったら,キャンセルしてもう一度インストールしてください。インストールを終えてしまっても,再びチェックを入れてインストールすれば問題ありません。
  4. [Install now]をクリックしてインストールを開始し,画面の指示に従ってインストールを終えます。
  5. インストールの終了を確認してから,[スタートボタン]/[Windows システム ツール]/[コマンド プロンプト]を実行します。
  6. python と入力してエンターキーを押します。
  7. Python が起動し,... for more information. などと表示されます。
  8. インストール成功を確認したら,コマンドプロンプトを終了します。
  9. スタートボタンを右クリックし,Windows PowerShell を起動します。
  10. Set-ExecutionPolicy RemoteSigned -Scope CurrentUser -Force と入力します。
  11. Windows PowerShell を終了します。
  12. Windows PowerShell の終了を確認してから,[スタートボタン]/[Windows システム ツール]/[コマンド プロンプト]を実行します。
  13. pip install img2pdf と入力してエンターキーを押します。
  14. img2pdf のインストールが行われ,Successfully installed などと表示されます。
  15. これでインストールは終わりです。ドラッグアンドドロップでファイルを変換するためには,バッチファイルを作ります

Python のインストールについては Windows 版 Python のインストール33を引用しました。

img2pdf のバッチファイル作成 (Windows)

  1. メモ帳を開きます。
  2. img2pdf.exe -o "%~p1%~n1.pdf" %1 と入力します。
  3. img2pdfbatch.bat というファイル名で保存します。拡張子を .bat にすることが重要です。拡張子(ファイル名の最後の3(程度)文字)が表示されない設定になっている場合は注意してください。歯車のようなアイコンになっていれば成功です。うまくいかない場合,保存するファイル名にダブルクォートをつけて "img2pdfbatch.bat" としてみてください。
  4. 適当な画像ファイルをドラッグアンドドロップすると,画像ファイルと同じフォルダに PDF が生成されます。

うまく作れない場合はこちらをお使いください

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参考


  1. TeX が組版システム本体の名前で,LaTeX は TeX をより使いやすくするための文書処理システム(フォーマットと呼びます)です。とくに意図しない限り,現在「TeX で文章を書く」とは事実上「LaTeX で文章を書く」ことを意味します。この記事はすべて LaTeX についてのものですが,(TeX) を付しているのは TeX という語のほうが知名度が高く,検索でいらしたかたに伝わりやすくするためです。 ↩︎

  2. 追記 2022-08-13。タイトルと最初の LaTeX に (TeX) と解説を追加。 ↩︎

  3. 文化庁長官官房著作権課,学校における教育活動と著作権。文化庁,参照 2022-07-22。 ↩︎

  4. 紀伊國屋書店,理系のための線型代数の基礎。紀伊國屋書店ウェブストア,参照 2022-07-23。 ↩︎

  5. 追記 2022-07-27。 ↩︎

  6. TablesGenerator.com,LaTeX tables generator。TablesGenerator.com,参照 2022-07-27。 ↩︎

  7. IronCreek Software,jsSyntaxTree。IronCreek Software,参照 2022-07-23。 ↩︎

  8. 2022 年度の勤務校。 ↩︎

  9. 改訂 2022-07-28。書籍での学習のすすめを見出しに立てました。 ↩︎

  10. 技術評論社,[改訂第8版]LaTeX2ε美文書作成入門。技術評論社,参照 2022-07-28。 ↩︎

  11. (Wiki),TeXの本。TeX Wiki,参照 2022-07-23。 ↩︎

  12. 追記 2022-07-26。 ↩︎

  13. Donald Arseneau,The wrapfig package。CTAN,参照 2022-07-26。 ↩︎

  14. ATATAT,Texによる文書作成10 ~図に対して文章の回り込み。つれづれなる備忘録,参照 2022-07-26。 ↩︎

  15. (CTAN),wrapfig2 – Wrap text around figures。CTAN,参照 2022-07-26。 ↩︎

  16. hohei,<新>解答欄を描くパッケージ(answerbox.sty)を更新しました。hohei’s diary,参照 2022-07-27。 ↩︎

  17. 追記 2022-07-27。 ↩︎

  18. (CTAN),qrcode – Generate QR codes in LaTeX。CTAN,参照 2022-07-26。 ↩︎

  19. Matthew Skala,qrcodeのパッケージもスゴイ。Ansuz,参照 2022-07-26。 ↩︎

  20. GeoGebra,GeoGebra。geogebra.org,参照 2022-07-23。 ↩︎

  21. 友田勝久,関数グラフソフト GRAPES。VISUAL 数学を目指して,参照 2022-07-23。 ↩︎

  22. 大熊一弘,LaTeX 初等数学プリント作成マクロ emath。LaTeX 初等数学プリント作成マクロ emath,参照 2022-07-23。 ↩︎

  23. 大熊一弘,訂正版。LaTeX 初等数学プリント作成マクロ emath,参照 2022-07-24。 ↩︎

  24. 追記 2022-07-24。 ↩︎

  25. (Wiki),TikZ。TeX Wiki,参照 2022-07-23。 ↩︎

  26. 追記 2022-07-27。doraTeX,TikZ でベン図をたくさん描いてみよう!。TeX Alchemist Online,参照 2022-07-27。 ↩︎

  27. (CTAN),hideanswer – Generate documents with and without answers by toggling a switch。CTAN,参照 2022-07-23。 ↩︎

  28. 株式会社エイトバルーン,i2pdf。フリーソフト100,参照 2022-07-23。 ↩︎

  29. Hironobu Yamashita,bcpdfcrop.bat — もうひとつの PDF クロップツール。GitHub,参照 2022-07-23。 ↩︎

  30. laborg,briss Files。SourceForge.net,参照 2022-07-23。 ↩︎

  31. Python.jp,非公式Pythonダウンロードリンク。非公式Pythonダウンロードリンク,参照 2022-07-23。 ↩︎

  32. Python Software Foundation,python。python.org,参照 2022-07-23。 ↩︎

  33. atsuoishimoto,Windows版Pythonのインストール。Python.jp,参照 2022-07-23。 ↩︎

  34. 塩田紳二,Windowsでファイルやフォルダーに「使わない方がいい」文字。ASCII.jp,参照 2022-07-23。 ↩︎

  35. atsuoishimoto,Windows版Pythonのインストール。Python.jp,参照 2022-07-23。 ↩︎